ひらログ

おひまつぶしにどうぞ。

全然いいと思う

 「子どもがほしくない」「同性が好き」「恋愛感情がない」エトセトラエトセトラに「全然いいと思う」って言うやつ、なんなん? ってだけの話をしよう。

 「いるいる! なんなん?」とうなずいた読者にはなんの目新しさもないであろう記事です。でも、「言われてイヤだったけど、なぜイヤか説明が難しくて対応できなかった」人には、ちょっと効き目あるかも。あしたから使って。

 当記事を読むことで未知の価値観に遭遇できそうなのは、「『いい』って言ってあげてるのに、なにがいけないのかわからない」と感じた人。おひまつぶしにどうぞ。

 言われた経験がそこそこある。「子どもほしくなくても全然いいと思う」って。ほかのことがらには「全然いいと思う」をもらったことがあんまりない気がする。「バイでも全然いいと思う」とか。対面の会話で自己開示する相手をしっかり選んでいるおかげかもしれない。

 ところが、子どもの話ってさあ、「結婚と子ども=全人類のプライマリな関心事」とでもお考えの人が、ともだちでもないのにとりあえず持ちかけてくるじゃん(他人が自分の話をするのをただ聞くとか、ラブいともだちと語りあうのとかは楽しいよ)。で、ほしいか聞かれる、いらんと答える。で、「全然いいと思う」。

 なんなん? 誰目線? 逆に「ダメだよ」がありうる? につきますね。

 他人に「許可を与える」「寛容であろうとする」態度の傲慢さには、自覚的でありたいとつねづね感じる。「大学を出ていなくても全然いいと思う」「色白でスリム体型じゃなくても全然いいと思う」「出世欲がなくても全然いいと思う」「心療内科に通っても全然いいと思う」。ぜんぶおかしいんよ。枚挙にいとまがないが、この場合の「いいと思う」は優しさじゃない。

 ひとさまのありかたに平気で「全然いいと思う」を投げかける姿勢の根底にあるのは、〈私は他人に対して「よい/わるい」の判断を下すことができる立場にある〉というグロテスクな思い込みだ。「そういうところ以外は好きなんだけどな」なともだちをもった人は、この先もつきあいをつづけたいなら、辛抱強く「いいとかダメとか、あなたが決めることじゃなくない?」と問われたし。

 でもでも、わかるのよ。「全然いいと思う」が嬉しいきもちも、よかれと思って「全然いいと思う」って言っちゃうきもちも。

 私の住む島国は、統計とか取ってないから体感の話でごめんねだけど、均質性・協調性への信仰があつく、「ニッポンは単一民族国家です」という深刻な誤謬さえはびこっているほどで、内輪の結束が強いという傾向は「よそものを排斥する」と同義であり、こうした環境下に育てば当然の帰結だが「いろんな人がいる」「人はいろいろである」という事実にさえ思いいたらぬ自他未分の成人が多く、なにがいいたいかというと、マイノリティに孤独と罪悪感を植えつける社会である。

 そういうわけで、私には、子どもがほしくない私を不出来だと思いなしていた過去がある。口にするのははばかられる願望であると。親に申し訳ないと。そんなときに「全然いいと思う」をもらったら、「ありえない」とかよりは、喜んじゃったんじゃないかな。それで、きもちがわかるって書きました。

 現在のスタンスですか? 子どもを望まないことについて悪びれる意味がわからない。諸悪の根源は、子どもをもたない人を責める風潮だ。ファッキン生産性。ファッキン種の保存。人間の価値や幸福と生殖能力を同一視するような人間は今後ますます数を減らすと期待しているけれど、子どもをもちたがらないこと・子どもができなかったことを気に病む人が、ただちに自尊感情を取り戻すのは難しい。そもそもここが「子どもいない? いらない? ふーんそうなんだ」以上の干渉を受けない社会だったら、いらんこと言われて「私はおかしいんだ」と思いつめて悩む人はずっと少なかっただろう。

 学歴主義もルッキズムも異性愛中心主義もぜんぶそう。人間のありかたというものを周囲が一方的に軽々しく評価すべきでは決してないのに、生きているだけで後ろめたさを抱かせるような抑圧につぶされたら、「全然いいと思う」に救われた気分になってしまうのも無理はない。

 「全然いいと思う」をつかう人はおそらく、みずからのありかたに自信がないのだ。それゆえ「認められる」「許される」ことに安堵してしまうのだ。あなたを「認めてやる」「許してやる」人間が、あなたと対等な立場にあるはずもないのに。それで、自分がもらって嬉しいものを、ほかの人にもあげているだけなのかもしれない。「子どもがほしくない? 世間はいい顔をしないだろうけれど、私は支持するよ」といったぐあいに。

 それはありがとう。でも、受けとれないよ。世間の評判とか周囲の反応とか、私に関係ないから。生きざまによいもわるいもないから。「全然いいと思う」から自由になって。