ひらログ

おひまつぶしにどうぞ。

たのしくてさびしい

 松任谷由実の「中央フリーウェイ」が最愛の宇宙人は好きなのだそうで、それは「たのしくて、さびしいから」だと散歩の途中で教えてくれた。正月にしてはあたたかい夜だった。「翳りのあるごきげんナンバーだよね」とか言いながら私はうなずいた。(ところで、これはコードやメロディに主眼を置いた話である。詞のない曲をつくる彼は歌詞をほとんど読まない。)

 たのしくてさびしい曲が好きだという彼は、甘やかで濁った曲をつくる、鋭くてとぼけたような人間だ、と私はみている。彼も私も、微妙な色あいによろめきやすい。ショッピングモールに出かけ、色違いの立像が九〇体も並んだなかからお気に入りを探したとき、ふたりして同じものを指さしたのはおもしろかった。それはアイスブルーともペールグレーともつかない、ほのかに曇った朝の色をしていた。けだるくて朗らかな声。静けさがざわめきを呼ぶ夜。私たちの好物の多くは、私にとっての彼は、複雑で不明瞭で、うつくしい。

 「外出の自粛要請」を受け、顔を合わせることをみずからに禁じた私たちは、別々の家で息をひそめ、でたらめな散歩の代用品としてのおぼつかない通話にふけるばかりである。次の約束を交わさず、際限なく笑いこける私たちは、沈みきって明るい。たのしくてさびしい。