ひらログ

おひまつぶしにどうぞ。

サプライズ

 私と交際相手とは、いわゆるサプライズを苦手とする。想定外の事態、大きな音や光、人混み、喜びや驚きを瞬発的かつ明示的に出力すること……私たちの不得手とする数々の要件から、サプライズは成っているのだ。互いにそれは知りつくしているから、ふたりのあいだに困りごとは起こらない。しかし、繁華な駅前を散歩してみれば、そこはふたりきりの世界というわけにもゆかない。異なる文法を用いる他人たちとの摩擦はつきものだ。むろん、私たちに遭遇する人々にとっても。

 駅ビルの最上階にて、夕食の席にマジシャンがおとずれた日を思い出す。興味深い奇術を披露してくれたものだから、こころのままにほほえみ、惜しみなく拍手をおくったつもりだ。けれど、驚きをあらわしはしなかった。驚かなかったから。かくして、私たちはつねに、模範的観客になりそこなう。その後、雰囲気の盛り上がる隣席を横目に、マジシャンの苦労は報われた、と私は勝手に決め込み安堵した。

 サプライズを苦手とするものがいかにも苦手としそうな場面は、日常にこそ潜んでいる。私たちは、結婚の報告に対する「そうなんだ」以外の返答を探しあぐねている。他人の法的手続きについて、驚くことはなにもなく、喜ぶかいなかは、当人の喜びようしだいだ。