男女の友情は成立しうるか──この問いに「はい」と答えねば私は友人を失う。「男女の」は「恋愛対象となりうる性別間における」の粗末な翻訳、短縮表現であろう。バイセクシャルの私は男とも女とも友情を築けない、というのは奇妙な話だ。
ただし、人間を男/女の二分法に従ってカテゴライズし、関係の深めかたを変えるという手法を採用するもの、すなわち上述の問いに「いいえ」を突きつけるものがあったとして、べつに不自然はない。その場合、私には関わらないでいただきたい。友情を築く見込みのない相手から親しげにふるまわれるのは不毛だからだ。「あなたはタイプじゃないから大丈夫」などと返事をされるかもしれないが、そもそも意識の差がはなはだしいから、きっとろくに話が弾まない。
なぜ私がいらだちを含ませてこれを書いているかといえば、この命題に接するたび、みずからの恥部を思い起こすせいだ。私は接客態度のよい女性(に見える人)を苦手とする。にこやかで機転が利き、顔立ちが好みだと最悪だ。見知らぬ人を一方的に「女として」見ているおのれに遭遇せずにはいられない。頭皮に汗をにじませながら上ずった声で礼を述べるとき、「いまの私なら舌を噛み切ったほうがよろしい」と呪わしくなる。