昨晩、ツイッターのトレンドに「負の性欲」という文字列を見つけ、いやな予感を携えながらその意味するところを確かめにかかった。私が解釈するかぎり「男性による性加害に対する女性の拒絶」をさすらしい。
この欺瞞に満ちた名づけには、しんから寒々とする。暴力を「正の性欲」と呼ぶこと、暴力への抵抗を「負の性欲」と呼ぶこと、いずれも誤りだ。これは、本来だれももちえないはずの〈人を踏みにじる権利〉と本来だれもがもっている〈人から踏みにじられない権利〉を同列に論じ、前者を正当化し、後者を矮小化するアジテーションにほかならない。「気に食わないから怒っているだけ」などと断じて、性犯罪被害者の訴えをかたづけたつもりか。(また、この用法とは別に、「性加害に加担しているわけでもない男性を女性が容姿などによって侮蔑すること」を「負の性欲」と名づける向きもあったが、その行為ははっきり人権の蹂躙とみるべきであって、やはり「負の性欲」なる呼称を用いる意義はない。)
このところ頻繁に「自分がされていやなことは他人にもすべきでない」という道徳観の陥穽を見る。たとえば宮根氏は「性行為を配信されワイドショーで笑いものにされようと、私なら自殺などしない」とでもお考えかもしれない。