友人たちから、痴漢に遭ったとか、アルバイト先の客につきまとわれたとかいった、性犯罪被害の経験を打ち明けられることがある。話し相手に私を選ぶのは、当人の受けた傷を背負ってみせたかのようにおおげさに嘆いたり憤ったり、あるいは、「あなたに魅力があるから」「あなたの対応に問題はなかったのか」といった的外れな責任転嫁に走ったり、をしないからということらしい。つまりそれは、そのような態度を取るものもあるという事実の裏づけではないか。二重三重の苦痛を被ったに違いない、愛する女たちを見るにつれ悲しくなる。
私にも痴漢と露出狂と、いわゆるナンパとに遭遇した経験がある。選びぬいた話し相手たちは、「こわかったね」「きもちわるかったね」「いやだったね」といった少ないことばをもって私を抱擁し、私はただただ、ほんとうにそのとおりだと思った。「モテるね」「気をつけろ」などとはだれも言わなかった。
声かけは痴漢ほどの迷惑行為には値しないという認識のほうが主流かもしれない。しかし私は、耐えがたい侮辱を受けたと感じた。なぜ、ひとりで外に出ることすら、ままならないのか。今後、たんなる親切心や困りごとのために私を呼ぶのかもしれない人々をも、疑いながら街を歩かねばならなくなったのだ。