ひらログ

おひまつぶしにどうぞ。

思うだけ

 私は徹底した地球人ぎらいではないから、他人たちについて、他人たちがそうするように、性的魅力を感じたり、心身の不調を心配したり、差別的「冗談」をおもしろがる神経の持ち主であったかと落胆したり、身勝手にもする。ただし、そのことを当人に表明するには、特別な資格を要すると考えるから、これらの思いつきの多くはどこにも出てゆかない。

 思うだけのことと、思いを打ち明けることとは、まったく異質の行為である。他人との距離を見誤って、自身の感情をむやみに吐瀉するものを私はひどくきらっている。たとえば、芸能人の私生活を暴く報道を受けて、「失望しました」といったメッセージを投げかけるファンはそれにあたる。私の対人関係における疲労と倦怠のほとんどは、他人に興味を示しすぎる人々(当人からすれば私が冷淡すぎるに違いないが)との摩擦によって生起するともつねづね思う。

 会社のことを、「あたたかくしめっぽい土地」と呼ぶのも、ひとつにはそのためだ。あいつんち、そろそろ三人目が産まれるんじゃなかったか。いやあ、がんばるよな──知りたくない。流れこんでくる雑音にめまいがする。親密さと信頼をほんとうに得たいのなら、私的な領域を侵さぬようわきまえ、口をつぐむとよろしい。