ひらログ

おひまつぶしにどうぞ。

私は貧しい

 私の家はじゅうぶんに豊かだ。私は、習いごとをいくつも経験し、早いうちに携帯電話を与えられ、毎年のように家族旅行をし、学費を一円も払わずに私立大学を出た。では、この私ひとりではどうか。ひとりで暮らしてゆくとしたら、どうなるか。手取りは二十万円にも満たない。このまま正社員をつづければ、年収はゆるやかに上昇することが約束されているが、それは一日のじつに半分という時間を売り渡した代償にほかならない。

 とはいえ、会社をやめさえすれば自由が得られるなどとも考えられない。まずは副業をなどと言いながら、じつのところ、プログラミングの勉強をしているのはほとんど気休めのためだ。勤務先のメーカーに出入りしている、派遣社員や外注業者のことを思い出す。正社員との関係は良好かもしれないが、待遇の差を見れば、経営者から単価の安い労働力として扱われていることは判然とする。私は会社をぬけだして、そこへ身を投げたいのか。

 社会に生きるものには、生まれた瞬間から差がついている。この国では、たったいちどつまずいたら、そこから立ち直るのはきわめて困難だ。生きてゆくにはお金がかかる。聞き覚えのある、ありふれたことばたちが、いまはからだを締めつける真実としてのしかかる。