会社をやめたい。勤め先が気に食わないのではない。会社勤めそのものをやめたい。集団生活から、八時間以上に及ぶ拘束から、抜けだしたい。先月になって判明したことだが、私は、あすもあさっても五時半に布団を這い出なければならない、そう考えただけで表情がふかぶかと翳りだす体質であったらしい。
勤め先は人にやさしい会社の部類に属すると思う。社内の人々はみな気さくで親切だ。これまでに残業をいちどもしたことがない。それでもやめたいのだから、とことん会社勤めに向かないということだ。
就職は考えうるかぎりの最適解だった。私自身の世帯主になりたい私は、いちはやく収入がほしかった。家を借り、クレジットカードを作るための身分と経歴も必要だった。企業にすべりこみさえすれば、特別な才能のない学士にもそれらが約束される。それに、この先、たとえば引越して早起きと無縁になったとかで、現在の暮らしにほんのわずか愛着が芽生えないともかぎらない。なにより、ほかにゆくあてもないから働きつづける。
しかし、いまのところ、このまま定年を迎える気はなく(それができるとも信じられず)、解放を志していろいろの勉強を始めた。