「我慢のきかない人たちが簡単に離婚する」という意見をあるとき耳にして、このかたは我慢して結婚生活をつづけていらっしゃるのだろうか、と考えましたけれど、たずねはしませんでした。我慢強くないから離婚する、という説はおそらく誤りであると私は見ており、かりにその通りであったとしても、忍耐ならびに継続は私からすれば美徳たりえませんから、「我慢」することなく離婚に踏み切った人があるなら、それができたことは望ましいと思うほどです。
いたいけにも「交際を長続きさせる秘訣」を収集した経験が私にはあり、しかもそれが遠い昔の話というわけでもないことには失笑を禁じえません。ところが、いまでは〈努力を要する関係は維持に値しない〉という原則のもと、あらゆる人間関係にあぐらをかいています。我慢を忘れたところで、困ったことはなにひとつ起こらないのです。きらわれることより、おうかがいを立てたり、余暇を減らされたりすることに痛痒を感じる宇宙人は、このようにするほかないでしょう。
人の誕生日におくったラブレターに、「私はなにもがんばりません」と書いた覚えがあります。私たちのあいだに流れゆく二年あまりは、したいからすることと、したくないからしないことの集積からなっています。