ひらログ

おひまつぶしにどうぞ。

人でなし

 やわらかな物腰を崩さず、いかなるときも穏やかにふるまう人のなかには、他人への愛情が深いのではなく、むしろ、他人に興味も期待も抱かないからかき乱されることもありえないという種類の宇宙人があり、そのような人々を私は好み、遠い理想としてもいます。

 ところで、私の両親はこの反対の性質を有しています。他人たちのあいだに生起した事件に対する私の気のない感想を聞きつけては、しょっちゅう「つめたい」「こわい」と揶揄しにかかるのです。「冷たいと評されても傷つかないほどには冷たいとお考えか」とたずねたいところですが、「真に受けるものではない」「あなたはすぐむきになる」などと片づけられるのはわかりきっているので控えます。私と両親とが愛しあっていることも、ことばがいまいち通じにくいことも、純然たる事実であり、このふたつはなんら矛盾しません。

 あるいは、他人に興味や期待を抱くことができるからこそ、子どもをもちたがりもするのかもしれません(ふたりは、望んで私の親になったことをたえず示してくれますし、それをごく自然にやってのけます)。その点において親に似なかった私は、人を人とも思わぬこころこそなかれ、他人は他人であるとしか思われず、凪いだ人でなしにいっそう近づきたいと考えるばかりです。