ひらログ

おひまつぶしにどうぞ。

2019-01-01から1年間の記事一覧

サボテン

自宅の近所に、いまどきの都市部にはめずらしく、古い平家が三軒隣りあっていた。今月の半ばごろから、取り壊しが着々と進んでいる。両端は長いこと空き家となっており、中央の、最後の住人は春に亡くなった。当時、私は前職の研修で県外に出ており、外泊の…

矜持

男女でことなる、不安定なときの対処法。女性相手には、意見や解決策を述べず、とにかく話を聞くこと。男性は、おっぱいにうずめてあげること。このような内容の漫画がツイッターに公表され、四万を超える「いいね」を集めている。原作者はなんと医師だった。…

寛解の予感

休職以来、はじめてだろうか。じつに四ヶ月ぶりということになる。始業時間(もはや私の生活には意味をなさない、仮想の規定だ)より早くに自然と目を覚まし、たしかな空腹を感じて朝食をとり、正午までにまとまった量の課題をこなす。けさは、それらすべて…

投石

「意見を述べるのに疲れたら、創作の畑においで」と最愛の宇宙人は私の身を案じた。このころ私は、まれにインターネット上で赤の他人から石を投げつけられるようになっていた。チップチューン畑のみなさんは、おおざっぱにいって、わが子がかわいくてしかた…

子供の領分

春から会社員になり、そろそろ引越しも考えはじめました。新しい生活に慣れるまでピアノはお休みします。と、発表会にて司会が読み上げる挨拶文を書き出した。虚偽の申告をしてはいないが、情報がいちじるしく不足している。つまり、現在の私は会社員をして…

とむらい

ツイッター社が「休眠アカウント」削除の意向を示したさい、故人のアカウントの保存を求める反発の声が多く寄せられ、ほどなくして削除は取りやめにすると決まった。私はユーザーの意見が大企業の決定を覆したことにかなり驚いた。 ソーシャル・ネットワーキ…

反「負の性欲」宣言

昨晩、ツイッターのトレンドに「負の性欲」という文字列を見つけ、いやな予感を携えながらその意味するところを確かめにかかった。私が解釈するかぎり「男性による性加害に対する女性の拒絶」をさすらしい。 この欺瞞に満ちた名づけには、しんから寒々とする…

オパシティ

医師のいう「軽度の抑うつ状態」を経験してから、存在の不透明度が下がった、とでもいうべきこころもちがする。死をいくぶん身近に感じる。べつに、生命維持の機能をみずから停止させようとこころみたわけではない。いまもそれを望んではいない。私はただ、…

一致

つぎに会うときは無職だよ、とへらへらして告げた私に、恋人は「そっか。これからいっしょに就活だね」とだけ答えた。つねに過不足なく、少なくてゆたかなことばをもって、私を抱き止める人である。むろん、劣悪な労働環境や、重篤な疾病を理由とする失業で…

退職

今月某日をもって退職する。この期日については、経歴に休職期間が含まれないよう人事部が取り計らってくれた。私の体調を気遣うことばを最後に、通話は終了した。ほんとうによい会社だと思う。 郵送する退職願は書き上がったが、添え状を作成する気は起こら…

見えないところ

脚のあいだが赤くただれ、シャワーの湯がしみて顔をゆがめるほど痛痒くなるという症状に見舞われ、産婦人科をたずねた。受診をいやがりつつもためらわないのは、私のもつ稀なる美点といえよう。医師は「カンジダ膣炎ですね」と説明し、問診票に書かれた抗生…

冬じたく

秋になってしきりに買い物をする。高くついた、と悔やまれるのは瓶入りの漢方薬だ。いちばん小さいのを選んだら、飲みきるまでに副鼻腔炎が完治せず、けっきょく買い足すことになった。ところで、診断書と銀歯は、買い物に含まれるだろうか。とかく、ここま…

アルバムリリースによせて

最愛の宇宙人、ウール・プールによるはじめてのアルバムが、きょうリリースされた。聴けば、彼の曲だということも、彼がなにによろめき、ひかれるのかも、私には手に取るようにわかる。そういう純度の高い楽曲で編まれているのだ。つくるのが好きでしかたな…

二重拘束

「あなたが社会に適応しづらいのはもしかしてASDのためではないか」と家族からたずねられた。その問いかけ自体に対しては、不愉快も驚きも覚えなかったが、やりとりをくりかえすうちに、ことばの通じあわなさばかりが判然として、壁に頭をぶつけるようだった…

なにもしたくなかった日

なにもしたくないので、きのうは夕方までベッドでうずくまっていた。転職サイトにへばりついていたのと、風邪が副鼻腔炎に転じたのとで、疲れているのだと思う。「何もしたくない」と検索窓に入力すると、「感情とは無関係に行動できるようになりましょう」…

自由のよすが

思想および言論の自由は封殺されているが、経済的には申し分なく豊かな社会、またはその反対、暮らすならどちらがましか、というような質問を高校の授業中に投げかけられた記憶がある。クラスメイトの多くは前者と答え、教師を驚かせた。そのなかに私もいた…

ハギビス

停滞した一週間だった。きのうの、雨戸をしめきった、LEDのしらじらと光る部屋のよどんだ大気、あれが目の奥や四肢の先にもつまっていそうな感じがする。花粉症がおさまったところで風邪をひいた。会社から業務上必要らしい尋問の電話がかかってきて、「締切…

産婦人科にて

すこぶる寝つきがよいし、どこでも寝られるから、産婦人科の待合室ではたいていまどろんでいる。目を開けていてはいらだつ。けれどいらだつのは好まない。血のにじむささくれを見つけたようで、あとから悲しくなるので、あらかじめ眠っておく。 これほどの空…

ふしぎ

「いわゆるナンパに遭遇した経験がある」と、月日を隔てたかのような過去形に封じ込めてひとつ前の記事を書き上げたものの、その「いわゆるナンパ」に、私が最後に巻き込まれたのは、ついきのうのことである。書きつけたところで溜飲は下がらず、最愛の宇宙…

侮辱

友人たちから、痴漢に遭ったとか、アルバイト先の客につきまとわれたとかいった、性犯罪被害の経験を打ち明けられることがある。話し相手に私を選ぶのは、当人の受けた傷を背負ってみせたかのようにおおげさに嘆いたり憤ったり、あるいは、「あなたに魅力が…

取り立て屋へ

行きつけのカフェにて「価格改定のお知らせ」を見る。どうやらほんとうに消費税は上がるらしい。取り立てられたぶん、国民になにがもたらされるか。いかに還元されるか。そのあたりは不明瞭だが、ごく近い将来の増税だけは、確定した事実であるらしい。 老後…

なんでも

駆け出しながらチップチューンの名手である最愛の宇宙人に誘われ、都内のライブハウスを訪れた。大気をびりびりとふるわせ、腹のなかまで流れこんでくる音。刺激に立ちすくんだのははじめのうちだけで、いつしか私たちの胴やかかとは浮かれてちいさく踊って…

わからない

プログラミングの勉強がはかどらない。一段落してからこれを書こうかとも考えたが、たまりかねて、吐きだす。湧きあがることばたちを内にとどめたまま、新しい概念に接して、解きほぐしたうえで摂取するという大仕事にいそしめるほど、私は器用ではない。 私…

ITZY

九年前に発表された、当時(あるいはいまでも)日本一の知名度を誇っていたアイドルグループのミュージックビデオを、知人は「企画もののアダルトビデオのようだ」と評したことがある。視聴したところ、売り手のべとついた思惑を見るようで、いやな感じがし…

きれいな手

シルバーの映える、白くまっすぐな指をもつ友人と、たわむれに指輪を交換してみたところ、彼女の薬指に私のピンキーリングが嵌まった。私の手は、指の第二関節ばかりが肥大し、爪は横長といってよいほど短くつぶれ、筋肉質ながら手触りはぐにぐにとやわらか…

赤の食卓

保守論壇の月刊誌で埋め尽くされた書棚の鎮座するリビングにて夕食をとるとき、実家を出るべきだという考えは生理的欲求にも似てきて、単に生活の手段として就職を選んだのは不誠実きわまりない失策であったが、いちどはそうせざるをえなかったのだから、無…

なかま

もはや私は文学部生ではないのだから、娯楽としての読書にふたたび親しみ、個人的な体験や素朴な感想文をいたずらに書きつけてもよろしかろう。「コンビニ人間」を読み、思い出したことがある。私には「なかまはずれ」に苦しんだ経験というのはほとんどなく…

休職

「プライベートでなにかありました?」「死にたいって思うことあります?」「どうしてこうなっちゃったんですかね。どうしてだと思います?」矢継ぎ早に浴びせられる、唐突で不躾な質問、必要な事務手続きとはいえ、あまりにやりかたのまずい訊問。休職に入…

透明人間

私はバイセクシャルであることを友人たちに公言している。しかしまだ会社では言わない。そして言ってみる前に退職するものと思われる。あれはまだ春だったか、「推しの俳優」や「イケメン」の話で周囲が盛り上がったときに、女優さんの名前しか思いつかない…

私は自由を渇望する

この国のことを考えると悲しくなるばかりだが、「考えたところでしかたない」というささやきに従ってものを考えなくなれば、今後とも玩具のごとき扱いを甘受するのみであるから、ここでなにが起きているのか、考える。めまいがする。やめたくもなる。なお考…