2017-01-01から1年間の記事一覧
なにもない一年でした。レッド・ホット・チリ・ペッパーズのためだけに、ひとり夏の雪国をめざしたのは昨年のことです。通学定期をはじめて手にしたのは一昨年です。今年はめずらしくどこにも行かないで、同じ改札や街並みを飽かず眺めました。変わらない景…
「間違っていても伝わればいいじゃないですか!」と、素朴かつあまりに切実な問いを、生徒は投げかけてくれます。文法と敬語を学ぶ意味がわからなかったそうです。そうだなあ、伝えるためにはなるべく間違えないことなんだよね。相手がことばの礼儀を重んじ…
「抱きしめてもらえるマシュマロ肌」になりたくて求めるのではないのだ、とげんなりしつつ、それなしには越冬できないので、今月もニベアを買い足しました。なんだか「もらえる」のところがいやです。条件つきで抱きしめられるのも、抱きしめられるためにお…
このごろは、見る人さえなければぼろぼろ泣くようになりました。昨晩など「キャロル」のベッドシーンを観ながらしきりに鼻をすすったのでした。それでやり過ごせたからよかったけれど、涙のこぼれてくる前に堰き止められないときは、もうどうしようもありま…
やはり院には行かず大学を出ようと思い立った今朝五時、私は就職活動をすることに決めました。そうしてなにか重苦しいこころもちになって、講義を休みました。二度寝ののち、「忙しくなる。私が不当に当たり散らすことがあれば叱ってほしい」という横暴きわ…
「優しい」と「冷たい」とを同量ずつ浴びて育ったためか、「優しいね」を受け取ってはもてあます癖が長いこと抜けませんでした。ひとことで人格が決定づけられるとか、みんなには見えていないほんとうの自分があるとかいった思い込みがとけたのは、おそらく…
心当たりのあるあらゆる文字列を打ち込めど、いっこうにログインできないページがあり、やけっぱちになって壇蜜の公称スリーサイズを入力したところあっさり開けました。私はなにを思ってパスワードを設定したのでしょうか。 頻繁に見るものだからいつしか覚…
大学の喫煙所が縮小されたそうです。「故郷を荒らされた勇者みたいな気持ちになった」という友人のつぶやきを読んで知りました。用のない私には、立ち止まって目を凝らしてもまるでわかりません。そこを突っ切って教室に向かうごとに、以前からこんなものだ…
「同棲」「愛の巣」の「棲」や「巣」のあたりに、どうぶつじみたものを感じます。どこかみっともなくてかわいい、的確な名づけです。ちいさなものたちが、なまなましく、懸命に息をつくさまをとらえた語であるように思われます。ただし、答え合わせをしてみ…
おかずしかり、こころしかり、ゆっくりあたためたものほど冷めにくいと決まっています。これは起伏に乏しいわが人生から導いた経験則です。電子レンジから取り出した味噌汁には、すぐに部屋のさびしい温度がうつってしまいます。「冷めないうちにどうぞ」と…
自分の書いたものが他人のことばのように受け止められるのというのはありふれた現象だけれど、それにしてもこれには驚かされた、と拾い上げた紙きれの文字をしみじみ読み直してから、住所の印刷されたダイレクトメールより入念にちぎって捨てました。「私は…
寝坊して急いで来たのがばれないように、息を整えて教室に入り、ドアがまた開かれるのを待つも、先生がお見えになりません。今週の近代文学研究班は、急遽お休みになったのでした。手帳に書かれていないことが起こるのは、このくらいなら歓迎します。雨に降…
漱石をして「その薄命と無残の最後に同情の涙を濺がぬ者はあるまい」と書かしめた九日間の女王を見に、上野の美術館へ行きました。その日もやはり濡れた傘を携えていました。私が人に会うと雨が降るようです。 目当ての展示品たちは常に分厚い人混みを隔てた…
子どもがほしいと思ったことがない、と話すと高確率で返ってくる「なんで?」に、ほしいほうが標準の規格なのだなと確かめさせられます。孫がどうとか軽口を叩く父と、それはセクハラだよとたしなめる母とを見ていると、すまなくてなにも言えなくなってきま…
歩行中の男女(に見える人々)と、自転車に乗ってすれ違うとき、つい男性のほうに目が行ってしまいます。夜道にて、徐行して頭を下げつつ、「ちゃんと彼女を守るんだろうな」とおにいさんを観察する自分に気づきました。性役割を拒むくせに他方とらわれても…
お金がないのに服を見て回りました。つぎのお給料日まで、みずからにおあずけを食わせておきます。最近の流行りなのか、どこの店でもエド・シーランのヒット曲が流れています。たしかにあの詞は、身体にぴったりくっついてくる洋服との親和性が高そうです。…
昼寝から覚めると一九時になっているのにがっかりしてふて寝をする夢から覚めると、まだぎりぎり夕方でした。必死さが伝わらない、と家族が見たら言ったであろう速度で、私なりに急いで支度をして出かけ、閉店間際の伊勢丹に着きました。 本店に足を踏み入れ…
花火の打ち上がる二〇分間を待って、地べたに二時間、ぼうっと座っていました。マニキュアを乾かす数分間には耐えられないのに、なぜか平気でなにもせずにいました。狭い部屋でなかったおかげというのもありそうです。ですから、ビーチでマニキュアを塗った…
小学生から高校生までがそろって学校に通い始めても、夏が終わっても、わが夏休みは続いてゆきます。私はいま、いわゆる人生の夏休みの夏休みにいるのです。勉強や旅行ができるのは大学生のうちだけでもないと、最も身近な人生の先輩たる両親が身をもって示…
少し前に、両親が銀婚式を迎えました。高額な品物は受け取ってくれない控えめなふたりに、さりげないプレゼントにちょうどよいものを探しに行ったところ、駅ビルも百貨店も臨時休業日らしく閉まっています。あてもなく歩きながら、コーヒーメーカーを買って…
麦茶に手を伸ばしたまま冷蔵庫のなかに頭をつっこんで涼み、警告音に叱られるのが、子どものころの夏休みの恒例行事でした。扉をしばらく開けっぱなしにしていると、知らせてくれるのです。長年のつきあいで鳴りだすまでの猶予を体得した現在は、だましだま…