ひらログ

おひまつぶしにどうぞ。

そうは見えない

私が家の人に発達障害ではないかとたずねられたことをうちあけたさい、「そうは見えない」と答えた友人のひとりもなかったことは、まことにさいわいだった、と思い返すたびしみじみする。受診してみないので、結果はわからずじまいである。それでかまわない…

六色の虹をまとって

一社目の「優良企業」をぬけだす以前のほうが、周囲のだれもが「やめていい」とうなずく環境に身を置く現在よりずっと頻繁に、「やめたい」とさんざん書き散らしていた。その理由はふたつほどある。 ひとつめは、「とりたてて瑕疵のないこの会社を早期に離れ…

先輩の話

デートの最中に、突如として吐き気を催したかと思えば、盛大にお腹を下した。ほどなくして回復し、最愛の宇宙人にいたわられたので、いつもどおり機嫌よく帰った。ひさしぶりのごちそうで、食べすぎちゃったな。そんなことばをこぼし、見送られた。週末の夜…

夜ふかし

昼過ぎに早退する。在宅勤務の日だから、チャットにひとこと書き残してノートパソコンを閉じるだけだ。着替えて横になり、目がさめると妹はすでに寝ている。私は人が帰ってきた物音くらいでは起きない体質だ。だからといって、睡眠の質がつねに高いともかぎ…

これから

最愛の宇宙人から、内定の報告を受けた。納得と満足と安堵に包まれながら、私は彼を電話越しにねぎらった。自己アピールどころか自己紹介さえしたがらないような人だから、はじめのうちは面接をおそれていたようだが、彼の場合、誇大広告に走る必要はなかっ…

たのしくてさびしい

松任谷由実の「中央フリーウェイ」が最愛の宇宙人は好きなのだそうで、それは「たのしくて、さびしいから」だと散歩の途中で教えてくれた。正月にしてはあたたかい夜だった。「翳りのあるごきげんナンバーだよね」とか言いながら私はうなずいた。(ところで…

転職活動ふたたび

転職を決意するまでに、二ヶ月ともたなかった。試用期間内である。この堪え性のなさは、昨年ひとつめの会社を半年あまりでぬけだしたときとまったく変わらない。ただし、今回ばかりは事情がことなる。私は転職の意思をすでにちらつかせているが、だれも驚か…

勉強会

職場では週にいちど「勉強会」を催す。著名な経営者の自伝を輪読し、感想を語りあうというものである。なんの意義があるか。私にとっては、ここでの社会的通念とのチューニング、につきる。この土地の不文律を、肌にしみこませるための会だ。 私はそこで、共…

出勤の朝

いつぶりにか、朝食をとる。戸棚にひとつ残っていたチーズ入りのパンと、常備しているヨーグルト。食いしんぼうのデルフィーヌが目を光らせる。ロレーンは人間たちの活動にはかまわず寝つづけており、そんなところが私にそっくりだと家族は笑う。二匹の額を…

ロレーンとデルフィーヌ

南の窓際に置かれたソファで仰向けになり、干したての布団と同じ温度の毛むくじゃらを腹にのせてこれを書いている。キジトラ猫のデルフィーヌである。実家には二匹の保護猫を迎えたばかりだ。もう一匹は、三毛のロレーン。ロレーンとデルフィーヌというのは…

ピアスをおくった日

高校時代からつきあいのつづいている友人と、きのうは半年以上ぶりに会った。彼女のほうから新年のあいさつをくれたのがきっかけだ。それまで、彼女は私の体調を慮り、また私のほうでは彼女が慣れない仕事のために多忙をきわめていると思い、連絡を控えてい…

サプライズ

私と交際相手とは、いわゆるサプライズを苦手とする。想定外の事態、大きな音や光、人混み、喜びや驚きを瞬発的かつ明示的に出力すること……私たちの不得手とする数々の要件から、サプライズは成っているのだ。互いにそれは知りつくしているから、ふたりのあ…

生きている

病状は一進一退、されどゆるやかに快方へ向かっている。年末あたりから、ようやくそのような実感をもちはじめ、からだはあいかわらず操縦しづらいものの、こころもちは安定している。むろん、転職活動がはかどらないことに対する焦りはたえずつきまとうし、…

遅まきの反抗期

今年、十二支の三周目に突入する「もういい歳」の私がいまさら家族を悪しざまに言うのは、逆説的ながら、そのことに罪の意識を感じるためでもある。「出てゆきたい」と口にするとき、棘をまきちらしているという不愉快な自覚がある。これは不健康な状態では…

友情の不成立

男女の友情は成立しうるか──この問いに「はい」と答えねば私は友人を失う。「男女の」は「恋愛対象となりうる性別間における」の粗末な翻訳、短縮表現であろう。バイセクシャルの私は男とも女とも友情を築けない、というのは奇妙な話だ。 ただし、人間を男/…

テレビ

一年のうちでいちばん好きな時期は年の瀬で、年の瀬を破りにおとずれる年明けがいちばんきらいだ、とずっと思っていた。ところが、二〇二〇年はそうでもないな、と感じてこれを書いている。きのうも妹と「年末年始感ないね」と言いあった。私たちはもう、両…

サボテン

自宅の近所に、いまどきの都市部にはめずらしく、古い平家が三軒隣りあっていた。今月の半ばごろから、取り壊しが着々と進んでいる。両端は長いこと空き家となっており、中央の、最後の住人は春に亡くなった。当時、私は前職の研修で県外に出ており、外泊の…

矜持

男女でことなる、不安定なときの対処法。女性相手には、意見や解決策を述べず、とにかく話を聞くこと。男性は、おっぱいにうずめてあげること。このような内容の漫画がツイッターに公表され、四万を超える「いいね」を集めている。原作者はなんと医師だった。…

寛解の予感

休職以来、はじめてだろうか。じつに四ヶ月ぶりということになる。始業時間(もはや私の生活には意味をなさない、仮想の規定だ)より早くに自然と目を覚まし、たしかな空腹を感じて朝食をとり、正午までにまとまった量の課題をこなす。けさは、それらすべて…

投石

「意見を述べるのに疲れたら、創作の畑においで」と最愛の宇宙人は私の身を案じた。このころ私は、まれにインターネット上で赤の他人から石を投げつけられるようになっていた。チップチューン畑のみなさんは、おおざっぱにいって、わが子がかわいくてしかた…

子供の領分

春から会社員になり、そろそろ引越しも考えはじめました。新しい生活に慣れるまでピアノはお休みします。と、発表会にて司会が読み上げる挨拶文を書き出した。虚偽の申告をしてはいないが、情報がいちじるしく不足している。つまり、現在の私は会社員をして…

とむらい

ツイッター社が「休眠アカウント」削除の意向を示したさい、故人のアカウントの保存を求める反発の声が多く寄せられ、ほどなくして削除は取りやめにすると決まった。私はユーザーの意見が大企業の決定を覆したことにかなり驚いた。 ソーシャル・ネットワーキ…

反「負の性欲」宣言

昨晩、ツイッターのトレンドに「負の性欲」という文字列を見つけ、いやな予感を携えながらその意味するところを確かめにかかった。私が解釈するかぎり「男性による性加害に対する女性の拒絶」をさすらしい。 この欺瞞に満ちた名づけには、しんから寒々とする…

オパシティ

医師のいう「軽度の抑うつ状態」を経験してから、存在の不透明度が下がった、とでもいうべきこころもちがする。死をいくぶん身近に感じる。べつに、生命維持の機能をみずから停止させようとこころみたわけではない。いまもそれを望んではいない。私はただ、…

一致

つぎに会うときは無職だよ、とへらへらして告げた私に、恋人は「そっか。これからいっしょに就活だね」とだけ答えた。つねに過不足なく、少なくてゆたかなことばをもって、私を抱き止める人である。むろん、劣悪な労働環境や、重篤な疾病を理由とする失業で…

退職

今月某日をもって退職する。この期日については、経歴に休職期間が含まれないよう人事部が取り計らってくれた。私の体調を気遣うことばを最後に、通話は終了した。ほんとうによい会社だと思う。 郵送する退職願は書き上がったが、添え状を作成する気は起こら…

見えないところ

脚のあいだが赤くただれ、シャワーの湯がしみて顔をゆがめるほど痛痒くなるという症状に見舞われ、産婦人科をたずねた。受診をいやがりつつもためらわないのは、私のもつ稀なる美点といえよう。医師は「カンジダ膣炎ですね」と説明し、問診票に書かれた抗生…

冬じたく

秋になってしきりに買い物をする。高くついた、と悔やまれるのは瓶入りの漢方薬だ。いちばん小さいのを選んだら、飲みきるまでに副鼻腔炎が完治せず、けっきょく買い足すことになった。ところで、診断書と銀歯は、買い物に含まれるだろうか。とかく、ここま…

アルバムリリースによせて

最愛の宇宙人、ウール・プールによるはじめてのアルバムが、きょうリリースされた。聴けば、彼の曲だということも、彼がなにによろめき、ひかれるのかも、私には手に取るようにわかる。そういう純度の高い楽曲で編まれているのだ。つくるのが好きでしかたな…

二重拘束

「あなたが社会に適応しづらいのはもしかしてASDのためではないか」と家族からたずねられた。その問いかけ自体に対しては、不愉快も驚きも覚えなかったが、やりとりをくりかえすうちに、ことばの通じあわなさばかりが判然として、壁に頭をぶつけるようだった…